六本木のゲイバーのドアを開けると健さんと長嶋さんが…【梅宮辰夫 最期の「銀幕」破天荒譚】

六本木のゲイバーのドアを開けると健さんと長嶋さんが…【梅宮辰夫 最期の「銀幕」破天荒譚】

【梅宮辰夫 最期の「銀幕」破天荒譚】#2

 2019年12月12日にこの世を去った梅宮辰夫さん(享年81)。梅宮さんにとって遺作の著書となったのが現在発売中の「不良役者 ~梅宮辰夫が語る伝説の銀幕俳優破天荒譚~」(双葉社)だ。自らの映画人生とともに伝説の役者たちとの交流がつづられた珠玉のエピソードの数々を一部再構成してお届けします。

  ◇  ◇  ◇

 俺が東映に所属していた時代、会社の看板を背負ったスーパースターが高倉健さんだった。

 健さんといえば、真っ先に思い出すのはコーヒー。俺の記憶では1日に必ず13杯飲んでいた。

 特に撮影に入る前は時間をかけてゆっくりコーヒーを飲んでいたから、健さんにとっては精神集中の儀式のようなものだったかもしれない。ただ、コーヒーの飲み過ぎで寝つきが悪いのか、朝はからっきし弱い。午前中に撮影がある日は、助監督らが数人で起こしたものだ。それでも起きない。だから、一人が歯ブラシに歯磨き粉をつけて、健さんの口の中に突っ込んでゴシゴシやり始める。それでようやく目が覚めた(笑い)。

「健さん、どうして朝がダメなんですか」

 俺が聞くと、健さんは照れくさそうに、

「血圧が低いんだよ」

 と弁解してたけど、俺はまるで信じちゃいない。か弱い女子高生じゃないんだから。貧血で倒れた健さんなんて一度も見たことがない(笑い)。

 健さんのコーヒー好きといえば、こんなこともあった。俺が銀座のホステス2人を連れて、夜中に六本木のゲイバーに行ったときのことだ。勢いよくドアを開けると、男2人が小さなテーブルを挟んで座っている。一人は健さん。向かいの席にはなんと長嶋茂雄さん。これには驚いた。

 健さんはすでに酒をやめていたし、長嶋さんも酒はあまり飲まないほうなのかな。しかも、2人が親友同士なのは周知の事実。だから、夜中にコーヒーでも飲みながら話をするのは不思議じゃない。だけど、場所がゲイバーだからさ(笑い)。

 でも、よくよく考えてみれば、天下のスーパースターがそのへんの喫茶店で話すわけにもいかないもんな。深夜、静かに話そうと思ったら、ゲイバーくらいしかなかったのかもしれない。

 健さんは常にファンの目を意識する人でもあった。スターはこうあるべきだという明確なイメージがあったんだろう。ある夏の日。俺が真っ黒に日焼けして撮影所に行くと、健さんが声をかけてきた。

「辰夫、どうしたんだ。そんな真っ黒い顔して」

「うちのアパートの屋上で日光浴してたんです」

「バカ野郎! そういうときは“フィジーに行ってきました”くらいのことを言えよ。アパートの屋上じゃ、夢がなさすぎるじゃないか(笑い)」

 人前に出るとき、健さんは鏡を見ては何度も着替え、支度に最低1時間はかけていた。もちろん、スーツから時計まで超一流。下着のパンツにまで気を使っていた。フランス製で、生地はシルク。

「辰夫、俺たちの職業はパンツ一枚でも、スーパーで売ってるようなのをはいたらダメだぞ」

 そこまで徹底するのが高倉健という人だった。 (つづく)