コラム:『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』の記事がバズった結果、ゲームライターのあり方に悩むことになった

引用元:IGN JAPAN
コラム:『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』の記事がバズった結果、ゲームライターのあり方に悩むことになった

フリーランスのゲームライターである筆者は、2019年もIGN JAPANにいろいろな記事を寄稿した。そのなかでも特に反響が大きかったのが、映画『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』(以下、「ユア・ストーリー」)がなぜ賛否両論となったのかを分析する記事である。
記事が大きな反響を呼ぶ、つまりバズれば結果としていろいろなことが起こる。今回はバズが筆者に何をもたらしたのかを順番に記していこう。
1. まず、なぜか妻が驚く

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IGN JAPANをはじめとするウェブメディアはただ自社サイトに記事を載せるだけでなく、フィード配信も行っている。人気のある記事はYahoo!ニュースなどのサイトでもピックアップされ、そちらでも配信が行われるわけだ。
Yahoo!ニュースのようなサイトはゲームやエンターテイメントなどにあまり興味がない人も見ている、つまりより多くの人が見ているわけで、バズった記事はさらに拍車がかかり読まれる。「ユア・ストーリー」の記事はYahoo!ニュースで配信されたのみならず、トップにも載ったらしい(筆者は未確認だが、そういう話を聞いた)ので多くの人の目に入ったのは間違いないだろう。
私の妻は、知人と雑談しているときに「ドラクエの映画がヤバいらしい」という話題になったそうである。よくよく話を聞いてみるとそのような記事がYahoo!ニュースに掲載されており、知人はそれを見て概要を知って話したそうな。しかも話の内容から察するに、どうやら私が書いた記事を見てそう思ったようである。
妻は驚きつつも「それ私の旦那が書いた記事なんですよ」と言い出すことができず、適当な相槌を打っていたそうだ。バズとはより多くの人に読まれるということだが、巡り巡って妻の知人という自分たちの近くにまで届くことでもあるのだろう。
2. 続いて、筆者の気持ちが代弁されてしまう

「ユア・ストーリー」分析記事の感想をいくつか拝見して驚いたのは「筆者が怒っている」と考える読者がけっこういたことだ。記事にあるように、私は「ユア・ストーリー」を見て興奮した。これはもう記事にするしかないと思い、映画館を出て帰りの電車内ですぐに下書きをはじめ、家についたらすぐ下書きを編集部に送ったのだ。つまり、別に怒ってはいないのである。
しかし、読者からすれば怒りの表現だとも読めるらしい。これは私の表現が甘かったか、読者が自分の気持ちを重ねて読んでいると解釈すべきだろう。筆者の意図はよほど正確に伝えなければ、変化してしまうのかもしれない(あるいは、正確に伝えること自体が無謀なのかもしれない)。
という話をIGN JAPAN副編集長の今井にしたところ、むしろ「読まれる記事は読者が感情を乗せやすいものだ」と言われた。単に事実を書いただけではどうしても反響が少なく、読者の気持ちを高ぶらせるものが読まれる。確かにそうだろう。
『ドラゴンクエストV 天空の花嫁』に思い入れがある人ほど「ユア・ストーリー」には怒る可能性が高いわけで、その人が私の分析記事を読めば自分の感情と同一視して見るのも無理はない。むしろ同一視できるからこそバズったのだ、と言えるのかもしれない。
3. そして、同業者に「オブラートに包んだほうがいいのでは」と言われる

一方で、同業者には「渡邉さんはもうちょっとオブラートに包んだほうがいいのでは?」と言われた。あまりにも物を言いすぎると、将来的な仕事が減るかもしれないというのである。
このときは「ユア・ストーリー」についての話ではなかった(例として挙がったのは『しあわせ荘の管理人さん。』についてであった)のだが、同じような話であろう 。 たとえば「ユア・ストーリー2」だとか『しあわせ荘の管理人さん 。 2』が出るとして、PR記事の企画が出たとする 。 その記事を誰に担当させるかとなったら、少なくとも私は真っ先に外されるだろう 。 また、作品の問題点を指摘しただけだとしても悪印象を持たれる可能性がある 。 たとえばとあるゲームを否定的に捉えたと表明した場合、そのファンが自分の人格をも否定されたかのような感情を持つこともありうるだろう(それが妥当ではない思い込みだとしても、だ) 。 余計なことを言わないほうがゲームライターとしての寿命が伸びる可能性があるといった指摘は真っ当なもので、むしろ心配されているのかとありがたい気持ちになった 。