劇作家・別役実 高齢で増加「パーキンソン病」と共存 ドクター和のニッポン臨終図巻

引用元:夕刊フジ
劇作家・別役実 高齢で増加「パーキンソン病」と共存 ドクター和のニッポン臨終図巻

 【ドクター和のニッポン臨終図巻】

 私の地元、兵庫・尼崎には、ピッコロシアター(県立尼崎青少年創造劇場)という素敵な劇場があります。お芝居はもちろん、コンサートや落語など多種多様な催しが開催されており、老若男女に愛されている劇場です。

 さらにこの劇場が素晴らしいのは、人材育成事業の集大成として、全国初の県立劇団となる〈ピッコロ劇団〉を立ち上げたことです。(ちなみに私は医者仲間と終末期の理解を深めてもらうためピンピンコロリ劇団、略してピンコロ劇団なる活動をしていますが、なんの関係もございません)

 さて、平成6年に設立された〈ピッコロ劇団〉の二代目代表として(現代表は岩松了氏)、尼崎に新しい文化の風を吹き込んでくれたのが、日本を代表する劇作家で、「不条理劇」の第一人者としても知られる別役実さんでした。

 3月3日、東京都内の病院で死去されました。享年82。死因は肺炎とのことですが、長年にわたりパーキンソン病の闘病をされ、昨今は入退院を繰り返していたとのこと。高齢化に伴い、認知症とともに増えているのがパーキンソン病です。現在1000人あたり1人と言われていますが、実際はもっと多いように思います。

 というのも、認知症や鬱病や老化現象と誤診されている人が少なからずいるからです。脳幹部のドーパミンの減少によって起こるこの病気は症状が実に多彩で、診断が難しい場合もあります。

 ・歩くときにうまく足が出ない(すくみ足)

 ・じっとしているときに手や足が震える

 ・バランスを取るのが難しく転びやすい

 ・方向転換がしにくい

 このように運動症状がある場合は、パーキンソン病と診断しやすいです。しかし、これらの症状が目立たず、認知障害や不安、鬱症状などが前面に出る場合は誤診をされやすいのです。

 また、病気の進行がゆっくりであることも特徴です。お薬で上手にコントロールできれば、発症から数年以上、普通に日常生活を送ることができるでしょう。

 お薬に負けず劣らず、運動療法がとても重要です。パーキンソンダンスやウオーキングが有効です。症状が軽ければゆっくり1回10分程度でもいいので転倒しないようにこまめに歩くことをお勧めします。転倒が怖いからと家に引きこもるのはよくありません。

 別役さんも、パーキンソン病と共存しながら最後まで演劇人として素晴らしい仕事をされていたようです。宮沢賢治が大好きで、ますむらひろしさんの猫の設定で大ヒットしたアニメーション映画『銀河鉄道の夜』の脚本も、別役さんが手がけていました。

 銀河鉄道に乗りこんだ別役さんに、コロナ騒動駆け巡るこの星はどう見えているでしょうか。

 ■長尾和宏(ながお・かずひろ) 医学博士。東京医大卒業後、大阪大第二内科入局。1995年、兵庫県尼崎市で長尾クリニックを開業。外来診療から在宅医療まで「人を診る」総合診療を目指す。この連載が『平成臨終図巻』として単行本化され、好評発売中。関西国際大学客員教授。