もうひとりの天地真理を探せ! 梶原一騎原作の青春マンガ「朝日の恋人」のヒロイン マンガ探偵局がゆく

引用元:夕刊フジ

 【マンガ探偵局がゆく】

 センバツ高校野球は中止となってしまったが、今回は1973年の入場行進曲に使われた大ヒット「虹をわたって」を歌ったアイドルにまつわる依頼だ。

 「実家の改築が決まり、昔使っていた子供部屋の整理に行ったら、天地真理さんのレコードや写真入りの筆箱や下敷きなどがどっさり出てきました。小学生時代はものすごい天地真理ブームだったんです。好きとか嫌いじゃなく、まりちゃんグッズを持ってないと友達と話が合わないくらいでした。そのころ、クラスの男子から“天地真理という名前はマンガの主人公からきている”と聞いた記憶があります。わたしが読んでいた少女雑誌にそんなマンガはなかったはずです。本当なんでしょうか?」(56歳・パート)

 天地真理は1971年、TBSの人気ドラマ「時間ですよ」で、堺正章演じる「松の湯」の健ちゃんが憧れる“隣のまりちゃん”役としてデビュー。劇中でも歌われたデビュー曲「水色の恋」が大ヒットしてたちまち国民的アイドルになった。

 芸名のもとになったとされるマンガは、70年から「週刊少年チャンピオン」に連載された梶原一騎・原作、かざま鋭二・作画の「朝日の恋人」だ。男臭いスポーツの世界を描いた「巨人の星」や「あしたのジョー」で知られる梶原一騎としては異色の明朗学園もので、のちの「愛と誠」や「青春山脈」など純愛路線の出発点になったとも言われる作品である。

 ケンカが三度の飯よりも好きという主人公の坂本征二は高校の入学式に向かう途中、線路に落ちて電車に轢(ひ)かれそうになった子供をひとりの少女が一瞬で救うのを目撃した。なんと、少女は征二と同じ高校の新入生。その名は天地真理。美人で頭が良く、スポーツ万能、日本舞踊も習っているという真理に征二は一目惚れするが、柔道部の馬場修平や野球部の紫光一というライバルが登場して、片思いの恋の行方は混沌とする。しかも、真理には彼らが知らない秘密があったのだ。

 梶原は晩年の著書「わが懺悔録」(こだま出版)で本作に触れて、渡辺プロダクションからデビュー予定の新人にヒロインの名前を使わせて欲しい、と申し出があったことを書いている。

 71年にはNET(今のテレビ朝日)が「太陽の恋人」のタイトルでドラマ化。征二を桜木健一が、真理を吉沢京子が演じた。

 テレビ化にあわせて連載は「太陽の恋人」「夕日の恋人」とシリーズ化され、「太陽の恋人」までが単行本になっている。

 ■中野晴行(なかの・はるゆき) 1954年生まれ。フリーライター。京都精華大学マンガ学部客員教授。和歌山大卒業後、銀行勤務を経て編集プロダクションを設立。1993年に『手塚治虫と路地裏のマンガたち』(筑摩書房)で単行本デビュー。『謎のマンガ家・酒井七馬伝』(同)で日本漫画家協会特別賞を受賞。著書多数。