Game*Sparkレビュー:『ライフ イズ ストレンジ 2』

引用元:Game Spark
Game*Sparkレビュー:『ライフ イズ ストレンジ 2』

!注意!本記事には『ライフ イズ ストレンジ 2』に関するネタバレが含まれています。

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これまでの人生で、誰もが「運命」を感じずにはいられない体験をしたことがあるはず。降りかかる理不尽、思いがけない幸運、最高の出会い、最悪の別れ。長い旅路とも呼べる人生を、プレイヤーひとりひとりに対して鏡のように写し出すのがDONTNOD Entertainmentの『ライフ イズ ストレンジ 2』です。

本作は、「選択」と「運命」を軸にするゲームだけに、描かれる「物語」が重要な役割を担います。したがって、本レビューには前作の一部、そして本作エピソード2までのストーリーに関する軽微なネタバレが含まれていますので、閲覧の際にはご注意ください。これらに触れないよう、ストーリー部分についてはページを飛ばして読み進められる構成としていますが、挿入している画像などについては、少なからずゲームの仕様に触れた内容となることを予めご了承ください。

なお、 本レビューはPC(Steam)版を日本語DLC導入の上でプレイしたものになります。

兄弟の物語

本作では、ワシントン州シアトルに住む16歳“ショーン・ディアス”、9歳の弟“ダニエル・ディアス”の兄弟が主役。自動車整備士の父親と3人で暮らしていましたが、ある事件をきっかけに追われる身となってしまいます。謎の能力に目覚めた弟を抱え、ショーンは父の故郷であるメキシコの「プエルト・ロボス」に向かうことになる……というのが本作のあらすじです。豊かな自然、打ち捨てられた廃墟、熱砂の大地……出会いと別れを繰り返しながら、成長していく兄弟が描かれます。

前作『ライフ イズ ストレンジ』、そのスピンオフ『ビフォア ザ ストーム』とは緩い繋がりがあるものの、独立した作品として楽しめる設計。「知っていなくても楽しめるが、知っていれば更に楽しめる」というのが妥当なところでしょうか。

受け継いだもの

本作でも、3Dアドベンチャーらしいゲームプレイは健在。シンプルでわかりやすい操作でありながら、しっかりとゲームをプレイしている、という質感を楽しめます。シリーズの特徴であるエモーショナルなBGMも作品を彩る要素のひとつ。例えば、エピソード2で使用されているSufjan Stevens「Death with Dignity」はあるテーマに深く切り込んだ一曲で、郷愁を感じるほどに世界観を補強してくれます。

また、リアルになりすぎない柔らかな印象のグラフィックはさらに進化し、陰影や光の表現がパワーアップ。ディテールの向上に伴ってか、カメラワークにも変化が見られます。様々な場所を訪れ、豊かな景観を楽しめるというのも本作の特徴のひとつです。

体験版という位置付けの短編『オーサム・アドベンチャーズ・オブ・キャプテン・スピリット』が無料で配信されています。本作に繋がる物語を楽しみながら、システムを体験できます。『2』から楽しみたい方にも敷居が低く、世界観に入り込みやすいと言えるでしょう。

ギミックとしての「兄弟」

プレイヤーが操作するのは兄のショーンですが、物語の鍵を握るのは弟のダニエルです。彼の幼さ、そして超能力(テレキネシス)が本作のメインギミックとなっています。ダニエルの成長はプレイヤーの選択にかかっていますし、ときには彼のテレキネシスが道を切り拓く鍵に。切っても切れない絆で繋がっている兄弟をうまくシステムに落とし込んでいます。

ただし、前作の超能力のような直接さはなく、「時間を戻してやり直せる」に匹敵するほど便利な能力ではありません。前作を体験した身からすれば、地味とすら言えるでしょう。それでも、ゲームという媒体で本作が展開される理由として、選択システムと並び立って機能しています。

16歳のショーンなら自分の判断で力を使うこともできるでしょうが、能力を手にしたのはダニエルです。もちろん、ある程度は言うことを聞いてくれますが、彼もひとりの人間なので自分の価値観に基づいて拒否することもあるでしょう。つまり、プレイヤーが自由にできない場所に能力があると言い換えることもできます。

先述の通り、本作では兄弟の物語が描かれています。ショーンの選択と同じようにダニエルの選択も運命を左右する要因のひとつ。ダニエルは育ち盛りの9歳でいたずらやごっこ遊びが好きだったりと、まだまだ子ども。彼の手本となり、その価値観を決定するのは彼の兄であるショーンの選択なのです。

操作キャラクターのショーンは言うまでもなくプレイヤーの写し鏡です。彼がプレイヤーに抗って行動し始めれば、ゲームの表現として別の意味を生みかねません。テーマと隣接する「家族」であり、価値観の定まりきっていない9歳の「弟」であるダニエルが選ばれたのは、システムと脚本の両面でスマートと言えるのではないでしょうか。

覚悟がいるプレイ時間

ストーリードリヴンのアドベンチャーゲームゆえに、1プレイにかかる時間が非常に長く、場面をひとつ進めるごとに30分は画面の前から離れられない、という印象です。メニュー画面を表示することでポーズ状態にしておくこともできるほか、そこからゲームを終了することも可能ですが、チェックポイント以後の記録は保存されないのでおすすめはできません。

できれば一息にエピソードをひとつクリアしてしまいたい……というのが本音ではあるものの、駆け足でプレイしたとしてもひとつのエピソードあたり約3時間はかかります。後述しますが、扱うテーマや物語の展開が重たいこともあって、プレイするのに覚悟がいる作品と言えるでしょう。しかし、裏を返せば、それだけ濃密な時間を過ごせるということでもあります。

今作でも、エピソードごとに挿入される“前回までのあらすじ”はしっかりと物語を振り返らせてくれます。ドラマのようなスタイルではなく、作中に登場する「兄弟狼のお話」に変更。より世界観に沿ったもので、各エピソードにおける楽しみのひとつになっているとも言えるでしょう。

熱の入ったローカライズ
本作のローカライズは、雰囲気を壊さないように細心の注意が払われています。文書は全て日本語訳で読むことができますし、字幕のフォントも世界観に沿っています。ちょっとしたかけ声や呻き声以外は、音声もフルボイスで吹き替えられていて、物語を自然に受け容れられました。個人的な好みかもしれませんが、特にプレイヤーキャラクターであるショーンはプレイするほどに思い入れが深まり、熱のこもった演技力を感じます。

<cms-pagelink data-text=”2ページ目:ストーリー部分に関するレビュー” data-page=”2” data-class=”center”></cms-pagelink>

<cms-pagelink data-text=”3ページ目:ストーリー部分のレビューを飛ばして総評へ” data-page=”3” data-class=”center”></cms-pagelink>

偏見

前作『ライフ イズ ストレンジ』ではオレゴン州の港町“アルカディア・ベイ”を舞台に、時を操る能力を手にした女子高生“マックス”の数奇な運命を描いていました。ひとつの町を舞台に展開されるほろ苦い「学園ドラマ」とバタフライ・エフェクトやカオス理論などの「SF要素」を融合させた、独特の雰囲気が特徴です。時を操るギミックも相まって、多くの人の心を掴みました。

しかし、本作は打って変わってロードムービーのような展開。エピソードごとに舞台が異なり、テーマはより現実に沿ったものになりました。そして何より「過去を変えることはできない」……作品としての毛色が大きく異なるのです。ここが前作のプレイヤーにとっても大きな戸惑いの種になる部分だと感じました。

本作の主人公となる兄弟は、母親が失踪した片親家庭の子供で、メキシコ系の移民二世。事故で“警官殺し”の汚名を着せられたのちに展開する逃亡劇は、非常に重々しいものです。前作でも衝撃的なシーンやバイオレンスな表現はありましたが、本作ではよりビターに演出されています。心安らぐシーンもあるのですが、常に付きまとう“逃亡劇”という背景が絶望に拍車を掛けています。

シリーズ作品として「縛りがない」のは、テーマと密接に絡みあった物語を展開する上で大切であると言えますが、非常に思い切った決断です。個人的には楽しめましたが、今回の作風を受け入れられない方もいるでしょう。まして、「人々の違い」というセンシティブなテーマに深く切り込む物語は、人によっては穏やかに見ることのできないものです。主人公たちは「移民二世」ですし、少なからず異なる信条を持った人間たちの物語が描かれます。そうした題材に不安や疑問を感じる方にとっては、評価しにくい面もあるかもしれません。

描かれるうち、いくつかのテーマは比較的政治寄りです。これも本作の物語に感じる重苦しさの一因となっています。特に「人種」による差別などの描写は、人によっては非日常的に映るでしょう。しかし、エピソード1で出会う“ブロディ”のセリフを借りるのであれば、「政治と切り分けられるものなんてない」。 身近に横たわる問題として、確かにそこにあるものです。実際、劇中でのショーンもシアトルにいたときには「人種」という違いに苦しんでいませんでした。運命に翻弄され、立場が変わっていく中で初めて気付く。「運命」を強調する、クセの強いスパイスです。

かくいう筆者も、序盤の展開には戸惑いを隠しきれず心配したファンのひとりでした。しかし、「運命」を軸にした物語はまさしく『ライフ イズ ストレンジ』です。前作を汲んだセリフもあり、思わず心を揺さぶられました。シリーズファンを狙ったと思われるその目配せは決して媚びたものではなく、プレイヤーによっては気付かないのではないかと思えるほど自然なもの。エピソード1の終わる頃にはすっかり感情移入し、物語に没入していました。散々前作について言及しておいてこう述べるのもおかしいかもしれませんが、『ライフ イズ ストレンジ 2』を評価するのであれば前作『ライフ イズ ストレンジ』の思い出は切り離すべき……とも思います。なにせ、それぞれが違う“人生の物語”なのですから。

エピソードごとの区切り
家族、人種、犯罪……そういった縁の渦巻く世界で、何を見出すのか。そこが本作のテーマです。各エピソードにもテーマが配置されていて、例えばエピソード1「旅立ち」では「人生」と「旅」、エピソード2「ルール」では「家族」と「ルール」が中心に物語が展開されています。

前作でもエピソードごとに盛り上がる場面は用意されていたものの、全ての答えがエピソード5に収束する、というイメージでした。本作ではエピソードごとにひとつの物事が決着する、という感触。歯切れがよくなったとも言えるでしょう(もちろん、最後には全てが収束する大きな答えが用意されています)。日本での展開は「コンプリートシーズン」形式でしたが、海外ではエピソードごとに期間を空けて配信される形だったので、それを意識してのことかもしれません。また、ロードムービーの特色である「道中での出来事が物語となる」という語り方にも合致します。各エピソードが際立ち、語りたくなる部分が増えたのは嬉しいことでした。

魅力的なキャラクターたち

主人公はもちろん、キャラクターひとりひとりがそれぞれの思想を持ち、そのもとで行動しています。「旅するジャーナリスト」、「過激な愛国者」、「信仰と規則を重んじる人」……。優しく接してくれる人もいれば、横柄な態度をとる人も珍しくありません。“いかんともし難い存在”としてある他人は、実にリアルです。心が温かくなるほど「いい人」もいれば、信じられないくらい「悪い人」もいます。その描き方は容赦なく、強いストレスを感じることがあるかもしれません。

特に主人公の二人には、性格に由来する能力が備わっています。受け容れることで周りの人間に親しまれるショーンは、絵の才能があり、日々スケッチに勤しむアーティストの卵。アクティブで、周囲に影響を与えるダニエルはテレキネシスで物に触れずとも干渉できます。多様な人格に揉まれながら、彼らがどう変化していくか、というのも魅力のひとつです。

辿り着く答えは
選択によって物語が分岐する、というシステムはありふれたものに思えるかもしれません。しかし、何気ない選択が及ぼす影響が大きいのが『ライフ イズ ストレンジ』シリーズの特徴です。ただ、前作は「時間を巻き戻す」ことができましたし、展開もなんとなく予想ができるような感覚がありました。しかし、本作では理不尽とも言えるような「運命のいたずら」に翻弄されます。具体的な箇所については言及しませんが、きっと後悔のない選択ができる人などいないでしょう。

加えて、責任を持たなければならないのはショーンの未来だけではありません。弟であるダニエルを導くのも重要です。兄弟は二人でひとつ。弟の生き方も運命に大きな影響をもたらします。

本作のキャッチコピーは「ひとつの選択だけで人生は決まらないから」。まさにその通りです。複数のエンディングがある本作では、旅路の果ても人それぞれになることでしょう。そして最後の選択、下した決断が正しいと思えるかどうかはプレイヤー次第。明確なメッセージもないため、各々がこの作品から受け取るメッセージも違います。辿り着いた答えに納得がいかないこともあるでしょう。実際、筆者はエンディングを見終えた後、少し悩みました。もっと違う生き方があったかもしれない……と。そうして考えることこそがこのゲームの意義であり、『ライフ イズ ストレンジ 2』というゲームが示したかったものなのだと感じました。

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総評
大きなテーマを抱え、プレイヤーそれぞれに答えをもたらす、というのはゲームならではの技法。それがシンプルなゲームシステムに落とし込まれ、誰もが楽しめるコンテンツとして提供されています。前作と同じ流れを汲みながら、その「呪縛」から解放され、より広い世界を獲得しているのも印象的です。

もちろん、ゲームとしての欠点がないとは言い切れません。プレイにまとまった時間が必要なこと、重苦しいドラマ……精神的に疲労することは間違いありません。しかし、その苦労に見合うだけの答えがそこにあります。まるで長い旅路のような物語を体験できるのが、『ライフ イズ ストレンジ 2』という作品です。

総合評価:★★★
良い点

・深く切り込んだテーマ
・シリーズ続編という「呪縛」からの解放
・物語と密接に絡み合ったシステム
・エピソードごとにしっかりと決着をつけていく構成
・熱のこもったローカライズ
・良質なサウンドトラック
・人生観を変えてしまうような物語

悪い点

・重くて苦しさもある展開が、プレイまでのハードルを上げる
・1プレイにかかる時間が長めになりやすい
・日本国内での展開は「エピソード方式」を活かしきれていない
・前作という「慣習」から離脱した人間関係の描き方

「Game*Sparkレビュー」ではハードコアゲーマーなライターから読者に向けて、オリジナルレビューをお届けします。対象となるタイトルはAAAからインディーまで、ジャンルやプラットフォームを問わず「ハードコアゲーマーのアンテナが反応するゲーム」です。

このレビューでは、3段階評価をベースに「良い点」「悪い点」を挙げながら総評を下します。最低評価は「難アリ/オススメできない」、中評価は「ふつう/そこそこオススメ」、最高評価は「とても面白い/とてもオススメできる」に当ります。「プレイレポート」として公開している記事では、本企画と同様の評価を付けません。また、記事の性質上、ストーリーなどの「ネタバレ」を含む場合がありますので、閲覧の際はご留意ください。

レビュー記事に使ったゲームは「編集部およびライターが購入した物」であり、デベロッパー/パブリッシャーから提供されるゲームソフトは利用しません。また、「Game*Sparkレビュー」は「PR記事」と一切の関係を結ばず、すべての評価内容がライターの価値観に基づきます。特定の企業やプロモーション、ユーザーコミュニティにも影響を受けません。

なお、マルチプラットフォームで展開されている作品においては、対応している機種のうちのひとつのエディションのみをプレイし、評価します。そのため、本文内でプレイした際の使用機種についても明記しています。 Game*Spark 杉元悠