手塚治虫さん新作漫画にちばてつや氏ら感慨「手塚さんの血が入っている」

引用元:オリコン
手塚治虫さん新作漫画にちばてつや氏ら感慨「手塚さんの血が入っている」

 「漫画の神様」手塚治虫さんの“新作漫画”がAI技術によって復活し、26日に東京・講談社で新作漫画お披露目イベントが開催された。1989年に亡くなってから、実に約30年ぶりに復活した新作漫画『ぱいどん』は、27日発売の週刊漫画誌『モーニング』(講談社)に掲載される。イベントには日本漫画漫画協会会長のちばてつや氏やお笑いコンビ・カラテカの矢部太郎が出席し、新作漫画の出来栄えに感動していた。

【写真】新作漫画『ぱいどん』の表紙

 『TEZUKA2020』と名付けられたプロジェクトは「もしも、今、手塚治虫が生きていたら、どんな未来を漫画に描くだろう?」という思いから、手塚さんの遺した膨大な作品をデータ化し、キオクシアの高速・大容量フラッシュメモリと先進のAI技術を駆使して、30年ぶりに新作を発表するというもの。

 漫画の主人公は、2030年の東京で、進んだ管理社会に背を向ける男・ぱいどん。記憶をなくしたホームレスだが、小鳥ロボットのアポロとともに事件を解決するべく立ち向かうというストーリー。漫画は前編、後編に分かれており、後編は現在制作中。

 この日のお披露目イベントには、手塚さんの息子でビジュアリスト・手塚眞氏のほか、今回のAI技術活用に尽力した慶應義塾大学理工学部の栗原聡教授、キオクシアの百富正樹執行役員が出席した。

 本作は手塚さんの131作品を読み込ませてプロットを生成。眞氏は「手塚は42年間で700作品以上を残している。年代の特徴もある。全部データ化すると、幅が広くなりすぎてまとまらない懸念があった。ある程度絞り込んだ年代、方向でデータを作った。中心は70年代の『ブラック・ジャック』『三つ目がとおる』などの作品をデータ化した」と経緯を説明した。

 タイトルの『ぱいどん』とした理由にも触れ、「本当は名前もAIに考えてほしかった」と冗談を交えつつ、「AIによる主人公の設定が、日比谷にいて、哲学者で、役者で、テーマがギリシャ。一見するとなんのことか分からない」と支離滅裂な設定に悩んだという。しかし「生前、手塚治虫本人が自分のアイデアについて『自分のストーリーは落語の三題噺みたいなもんです。3つテーマをいただければ、それを組み合わせてお話を作ります』と手塚治虫ならではの発想力があった」と手塚さんの話を引き合いに出し、「それを考えた時に、哲学を日比谷公園で語っている浮浪者のような人ではないかと浮かんだ。テーマが古代ギリシャだったので、有名なプラトンの著作に『パイドン』がある。それで『この名前は面白んじゃないか』と思った」と秘話を明かした。

 AIが生成した約1000を超えるキャラクターから、今回の主人公の顔を選んだのは、“手塚治虫”らしさがあったからと明かした。眞氏は「この顔を見た時、ふっと惹かれるものがあった。何でだろうと思ったら目つきなんです。ちょっと潤いを帯びた影のある感じ。片目も見えていない。秘密がありそうな顔の主人公は興味深く面白いと思った。手塚治虫的な雰囲気が出ていたが、見たことがない。『もしかしたら手塚治虫が新しく生み出すとしたらこんな顔かもしれない』と思った。ちば氏も「懐かしい感じがしました。手塚治虫さんの血が入っている。そういうキャラクターですごく懐かしかった」と絶賛していた。

 本作をすでに読んでいる矢部は「わくわくしました。キャラクターもすごく魅力的で、仕事の依頼を受けても簡単には受けないような『ブラック・ジャック』的な性格があったり。『三つ目がとおる』の(主人公の)写楽を彷彿とさせるギミックもあった」と興奮気味に感想を語った。今回の制作過程を『鉄腕アトム』の世界になぞらえ、「みなさん、リスペクトを込めて作られてるなと思った。その世界に自分がいるようで、わくわくする読書体験でした」と満足げな笑みを浮かべた。