「麒麟がくる」チーフ監督が語る門脇麦の魅力 駒の恋心巧みに 思い人・光秀と再会「ドギマギしまくり」

「麒麟がくる」チーフ監督が語る門脇麦の魅力 駒の恋心巧みに 思い人・光秀と再会「ドギマギしまくり」

 女優の門脇麦(27)がNHK大河ドラマ「麒麟がくる」(日曜後8・00)にレギュラー出演し、医師・望月東庵(堺正章)の助手・駒を好演。初回(1月19日)に“タイトル回収”の大役を担うなど、今作のヒロインとして存在感を発揮している。23日放送の第6話は主人公・明智光秀との再会がクローズアップされる“駒回”。「光秀はもちろんですが、このドラマは駒で回っていると言ってもいいぐらいだと思います」と語るチーフ演出・大原拓監督に門脇の魅力を聞いた。

 俳優の長谷川博己(42)が主演を務める大河ドラマ59作目。第29作「太平記」(1991年)を手掛けた名手・池端俊策氏(74)のオリジナル脚本で、智将・明智光秀を大河初の主役に据え、その謎めいた半生にスポットを当てる。物語は1540年代、まだ多くの英傑たちが「英傑以前」だった時代から始まり、それぞれの誕生を丹念に描く。

 門脇の大河ドラマ出演は、終盤に登場した2013年「八重の桜」以来7年ぶり。今回演じるのは、京の医師・望月東庵(堺)の助手・駒。王が仁のある政治を行う時に必ず現れるという聖なる獣「麒麟」の存在を信じている。

 歴史上実在しないドラマオリジナルのキャラクター。第1話終盤。駒は3歳の時、戦による火事に巻き込まれたが、“大きな手の人”に救い出され、その“命の恩人”が「いつか戦は終わる。戦のない世の中になる。そういう世を作れる人がきっと出てくる。その人は麒麟を連れてくるんだ。麒麟というのは、穏やかな国にやってくる不思議な生き物だよ。それを呼べる人が必ず現れる。麒麟がくる世の中を。だから、もう少しの辛抱だ」と慰めてくれたと、光秀に身の上を打ち明けた。このセリフはインターネット上で「タイトル回収」と反響を呼んだ。

 大原監督の“演出の軸”は「キャラクターがどういうふうに跳ねていくのか、落ち着いていくのか、そこに尽きると思います。演者さんたちから、それを引き出していくのも、我々スタッフの力量が問われる部分。視聴者の皆さんに、どれだけキャラクターに入り込んでいただけるかだと思います」というもの。

 その点から、駒のキャラクター像について尋ねると「戦災孤児ですが、両親を亡くしたトラウマや恨みなどのネガティブな思いはあまり表に出さず、戦国の世に光り輝き、みんなを照らす“太陽”のような人であってほしいとイメージしました。悲劇をそのまま表現して生きていたら、かえって抱えているモノが弱くなる。即ち、駒というキャラクターも弱くなってしまうので、逆に明るくありたいというのが一番大事にした要素。だから、衣装の色もオレンジなんです」と解説。

 「いつの世もそうだと思うんですが、『前向きでいれば、何とかなる』という思いが私の中にあります。それを駒に投影したかったので、抱えているつらさはあまり表に出さないキャラクターにしてほしいと門脇さんにお願いしました。駒は自分の悲しい生い立ちやトラウマを抱えつつも、『このままじゃいけない』と前に向かって生きられる人。だから『麒麟』という言葉や存在が彼女の中に大きく根付いているんだと思います。そういう部分を立体的に表現したかったのですが、門脇さんが本当にうまく演じてくれています。戦のせいで両親を失ったという“被害者意識”だけじゃ、前に進まないと思うんです。『それを乗り越えて生きていくんだ』という生命力が駒の一番の魅力にしてベースメントで、光秀と合致します。武士の光秀は常に死と隣り合わせの中、どうやって美濃を守っていくか。庶民の駒は武士の戦に翻弄されながらも生き抜こうとする強い思いがある。武士と庶民、違う生き方をしていても、『今を生きていくんだ』という思いは一緒。光秀はもちろんですが、このドラマは駒で回っていると言ってもいいぐらいだと思います」と、その重要性を力説した。

 一方、光秀に対する駒の“恋心”も描かれてきた。

 第4話(2月9日)。道三から天敵・織田信秀(高橋克典)の容態を秘密裏に探るよう命じられた東庵の“人質”となった駒。無事お役御免となり、光秀が「喜んでください。もう、ここ(稲葉山城)にいなくてもよいのです。いつでも京に戻れるのです。もう足止めもされないし、好きにしてよいのです。いやー、よかった。安心しました。本当によかった」と伝えると、駒は「十兵衛様は、私が京へ戻るのがそんなにうれしいのですが?『よかった』『安心した』って、そんなに京へ戻したいのですか?そりゃ、戻りたいですよ。でも、そんなに『よかった』って言われると、ちょっと寂しゅうございます」と乙女心。「分かります?そういうの」とむくれた。

 第5話(2月16日)。駒は美濃から京へ帰る前、光秀の家に立ち寄ったが、光秀の母・(石川さゆり)から「今朝、近江の国友村というところに出掛けたのですよ。駒さんがおいでと分かっていたら、十兵衛も出発を遅らせましたでしょうに」と入れ違いになったことを聞かされると、悲しげな顔。帰り道、菊丸(岡村隆史)が「ええ?近江に?じゃ、お会いにならないまま。それはないでしょー、もう会えないかもしれないのに。どうして近江などに行くかなぁ」と駒の気持ちを代弁した。駒は「仕方ない。またお会いできる、いつか」と涙をこらえた。

 23日放送の第6話は「三好長慶襲撃計画」。京で開かれる連歌会で、時の権力者・細川晴元(国広富之)が、晴元を凌ぐ実力者となろうとしている三好長慶(山路和弘)と松永久秀(吉田鋼太郎)を暗殺しようと計画していることを光秀(長谷川)は知る。将軍・足利義輝(向井理)の治世の下、京の安寧が崩れることを恐れ、三淵藤英(谷原章介)と細川藤孝(眞島秀和)らと協力し、松永らを救う。しかし、光秀は負傷。望月東庵(堺)の診療所へ運び込まれ、駒(門脇)と久々の再会を果たす…という展開。

 物々しいサブタイトルだが、駒と光秀の“最接近”もハイライトの1つ。大原監督は「今と違って、いつでもどこでも何度も会えないのが戦国の世。しかも、思い人と再会するなど、ほぼあり得ない。そうした時代観を背景にしているからこそ、より恋心が募る。そうした思いを抱えた駒が、光秀にドギマギしまくります」と予告し「少女のあどけなさと恋する女性の表情を行ったり来たりするのを、門脇さんが巧みに表現してくれて、とても魅力的に、かつキャラクターの幅や奥行きを広げてくれました」と絶賛した。

 17年の土曜時代ドラマ「悦ちゃん~昭和駄目パパ恋物語~」に続くタッグ。「色気があるキャラクターにも、かわいげがあるキャラクターにも持っていけて、振り幅が大きいのが門脇さんの魅力。ただ、キャラクターの軸のラインは絶対に崩さない。当時、この若さで、これほどの表現力を持っていることには驚きました。何より、単純に撮っていて楽しい人なんです。どちらかというと、性格俳優的なイメージもありますが、それはたまたまそういうキャラクターを演じただけであり、そのキャラクターになり切れる実力があるからだと思うんです。奇をてらうことなくストレートに芝居をぶつけられる。要求すれば要求するだけ、応えてくれるんです。なかなかぶつけられない役者さんもいるんですが、門脇さんは長谷川さんにぶつけて、長谷川さんがはね返してきたところを、もう1回ぶつけていったり。つまり、芝居のキャッチボールですよね。ドラマの世界観は、そうやって膨らむものなので。それができる人と作品を作れるのは、やっぱりおもしろいです」

 門脇は11年に女優デビュー。14年には映画「愛の渦」「シャンティ デイズ 365日、幸せな呼吸」「闇金ウシジマくんPart2」で第88回キネマ旬報ベスト・テン新人女優賞など新人賞を受賞。15年前期の連続テレビ小説「まれ」でヒロイン(土屋太鳳)の友人役を演じて話題を。昨年は映画「止められるか、俺たちを」で第61回ブルーリボン賞主演女優賞に輝いた。

 自身も「ドラマのヒロインというと、イメージ的には主人公と恋仲になったり、パートナーになったりですが、駒はまた違ったヒロイン像。光秀は戦や政治で世を作っていく人。駒は医療で世を作っていく人。ヒロインというよりは、物語のもう1本の柱を担わせていただいているという感覚が強いです」と自負。「麒麟がくる」の1年間を通して、門脇の才能がさらに大きく開花しそうだ。