【インタビュー】『ミッドサマー』アリ・アスター監督、「自分が危機に瀕している方がいいものが書ける」

引用元:cinemacafe.net
【インタビュー】『ミッドサマー』アリ・アスター監督、「自分が危機に瀕している方がいいものが書ける」

『ヘレディタリー/継承』で全世界に衝撃を与えたアリ・アスター監督が、最新作『ミッドサマー』を引っさげて来日。スウェーデンの奥地の村で行われる「90年に一度の祝祭」を舞台に繰り広げられる妄想やトラウマ、不安、恐怖に満ちた出来事…。前作に続き、独特の世界を作り上げたアスター監督が作品に込めた思いを語った。

【写真】「ホラー映画ではない」と語るアリ・アスター監督

作品には自分の分身となるようなキャラクターが登場する
不慮の事故により家族を失ったダニー(フローレンス・ピュー)が、微妙な関係になった恋人・クリスチャン(ジャック・レイナー)に誘われてやってきたスウェーデンの奥地の村で開催される「90年に一度の祝祭」。陽気に歌い踊る村人たちの立ち振る舞いから、幸福に満ち溢れた楽園のような雰囲気を見せるものの、どこか不穏な空気も流れる…。やがてある出来事をきっかけに衝撃の事実が次々に明らかになっていく。

『ヘレディタリー/継承』とは、纏う雰囲気はまったく違うが、登場人物が抱える心の奥底に流れるものは共通点を感じる。アスター監督は「自分が作品の脚本を手掛けるとき、危機に瀕している方がいいものが書けるんです」と笑顔を見せると「両作品とも、自分にとってはパーソナルな内容で、自分の分身となるようなキャラクターがいます。『ミッドサマー』ではダニー、『ヘレディタリー/継承』では何人かに分けています。自分の持つ希望がない感じや、悲しみ、孤独、恐怖心を、キャラクターを通じて表現し、お客さんが何らかのカタルシスを得られるように物語を構成しています」と作品へのアプローチ方法を述べる。

劇中には前作同様、戦慄のシーンがいくつもあるが、アスター監督はイベント等で何度も「ホラー映画ではないんです」と強調する。その真意について「ホラー映画というラベルをつけてしまうと、それだけで『観ない』という方が一定数います。それはとても残念なことだと思うし、この映画はホラーが好きではない人にも楽しんでもらえる作品なんです」と持論を展開すると「確かに映画のなかには恐ろしいことが起きますが、ほとんどの映画にも恐怖はあります。そもそもこの映画にはホラーというラベルが適していないと思うし、ダークコメディという表現がしっくりくる作品です」と力説する。

色彩へのこだわり “死”の象徴は黄色と青
とは言いつつ、やはり暴力的なシーンや、ややグロテスクな描写は劇中登場する。この点について「そこにはただ恐ろしいという感情を植え付けようとしているのではなく、必然があります。『ミッドサマー』で言えば、ダニーという主人公と同じ経験を観客にも味わってほしいという思いがあるので、そういうシーンが必要不可欠なのです。暴力表現も『ホラー映画だからここまでの描写が必要だ』という考えではなく、あくまでストーリーラインのなかで必然だと思ったものを描いているのです」と説明した。

本作では、白夜という設定もあるが、非常に開放感溢れる草原のなか、色彩豊かな映像描写も特徴だ。一般的なホラー作品とは大きく異なるような“色味”が存在する。

「色彩設計は美術さんや撮影監督と共に決めていきますが、僕の映画作りのなかでは非常に重要な部分です。製作費の関係もあり、すべてイメージ通りに実現できない部分もありました。例えば村の人たちの衣装は、最初白ですが、徐々にカラフルになっていく構想があったのですが、そこは叶いませんでした。でも細部までこだわっており、一つ具体例を挙げれば、今回の作品で“死”を意味する色は青と黄色というモチーフがあります。スウェーデンの国旗と一緒です。映画のなかのいろいろな場所で青と黄色が使われています」。

「またダニーとクリスチャンの衣装にも注目してほしいです。話が進行するにしたがって、ダニーの衣装は明るく、クリスチャンは色彩がなくなっていきます。ただあまりにも分かりやすいとサブリミナル効果がなくなるので、そのバランスはいつも非常に難しいんです」。

3作目はダークコメディ、4作目はSF
「自分のパーソナルな部分が色濃く作品に反映され、危機に瀕していた方がいいものが書ける」と述べていたアスター監督。本作も自身の失恋が発想のスタートとなっている。なぜ辛い経験を形として残しておきたいと思うのだろうか――。

「いま書くべきと思えないものを、執筆することほど辛いことはない。その意味で、自分が痛みや辛いことに対して向き合い、答えを見つけ出そうと格闘しているものこそ、創作意欲がわくのです。作品を作るうえで、明確なメッセージや答えはもちろんですが、問いかけも残ることが僕のなかでの理想なんです。『ミッドサマー』もそういう作品であってほしいと願っています」とメッセージを伝える。

『ヘレディタリー/継承』は世界中から称賛され、アスター監督の名は広く轟いた。「すごく嬉しいことです」と笑顔を見せるが、実は『ヘレディタリー/継承』と『ミッドサマー』は並行して制作に入っていたため、多くの評価をしっかりとかみしめる時間がなかったという。「いまようやく2つの作品が完成して、皆さんの意見を受け止めているところなのです。すごくいろいろな意見をいただき光栄に思っています」としみじみ語る。

「結果を残すことで次の作品に進むことができる」と語ったアスター監督。すでに次回作の執筆にとりかかっているようで「次はダークコメディを書いています。順調にいけば、3作目はいま執筆している作品になります。さらに4作目はSFをやりたいと思っています。すでに脚本に着手しており、映画化のめどがたったら書き進めていければと思っています」と構想を明かしてくれた。