1月発売のCDピックアップ 木村拓哉の初作品は自然体

引用元:産経新聞

 昨年発売されて出荷枚数もしくは有料ダウンロード数が100万を超えた音楽アルバムは、嵐のベスト盤だけだった(日本レコード協会調べ)。それでも、作品は続々と発表される。1月発売の作品をピックアップする。(石井健)

 昨年末のNHK紅白歌合戦にも出場したKing Gnu(キングヌー)の「CEREMONY」は、古い器に新しいワインを注いで興味深い。

 東京芸大出身の常田大希(つねた・だいき)を中心とした4人組ロックバンドの1年ぶり3作目は、その構成手法や全12曲で36分という短い収録時間が、英米ロック全盛期の作品をほうふつさせる。

 もちろん個々の楽曲は、今を表す。例えば、前半の4曲は、いずれもイントロがない。いきなり核心に切り込むのは、音楽の「定額聴き放題サービス」が台頭する中、耳に印象を強く残す作風とされる。

 サビとその他の部分とが混然一体の旋律、悔恨と希望がないまぜの歌詞。そこに生まれる焦燥感。混とんとした時代の若者には、等身大の歌なのだろう。

 歌手の越智志帆すなわちSuperfly(スーパーフライ)の4年半ぶり6作目「0」は、King Gnuとは対照的か。旋律は、風や水が流れるようにしなやかに紡がれ、完全に制御された声で、「生きているって素晴らしい」と明日への希望を歌い上げる。

 休暇をとり、心機一転。その気持ちは題名にも表れた。そこで、今回は曲作りにも取り組んだ。11曲中10曲が自身の手によるが、朝ドラ主題歌「フレア」や「Gifts」を筆頭に、いずれも佳曲だ。

 声と伴奏と、トータルで心地よいのは、MISIA(ミーシャ)の「MISIA SOUL JAZZ BEST 2020」。「Everything」「つつみ込むように…」など16曲中10曲は、ジャズトランペット奏者の黒田卓也が絶妙の編曲を施し、米ニューヨークでビッグバンドを従えて録り直した。

 人肌の響き。歌声が、管楽器群と相性抜群で、双方が引き立てあう。1曲だが、米ベース奏者、マーカス・ミラーが客演。彼の歌の伴奏が聴けるのは珍しい。こらえきれず終盤で派手な技を炸裂(さくれつ)させるのがおかしい。

 声といえば、中島みゆきの「CONTRALTO」(コントラアルト)は、自身の声域を表す音楽用語を題名にした。「これが私だ」ということか。通算43作目。もはや分類不能の独自の“中島みゆきワールド”を、今回も強固に作り上げている。歌詞の言葉の強さは圧倒的だが、今作でもブックレットに英語対訳を掲載しているのが独特だ。

 話題性なら木村拓哉の「Go with the Flow」。SMAP解散後、個人で出す初めてのアルバムだ。「波に任せて前へ」とは、サーフィンを愛するこのスーパースターらしい題名。自然体で前進したいという意思も込めたか。

 「振り返らない」「迷いはない」という歌詞を書いたB,zの稲葉浩志(こうし)を筆頭に槇原敬之、水野良樹、森山直太朗らが、「等身大の木村拓哉」を歌詞や旋律にして提供。木村も肩の力を抜いている。まさに自然体で歌うのがいい。

 「Kitrist」(キトリスト)は、姉妹による新人、Kitri(キトリ)の初アルバム。1台のピアノを連弾で弾き、歌う。変わり種だ。童話の不思議な森へと誘われるような気分になるが、歌詞のはしばしには、King Gnuと同じ焦燥感も垣間見える。彼女たちもまた、今の歌を歌う。29日発売。

 日本レコード協会の集計では、昨年のCDなど音楽ソフトの生産金額(卸売額)は、2291億円(前年比5%減)で、昭和52年頃の水準。ピークは平成10年の6074億円。